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東京地方裁判所 昭和59年(ワ)12712号 判決

一 不正競争防止法一条一項一号及び二号の規定に基づく請求について

1 成立に争いのない甲第七号証、第八号証の一ないし三、第九号証の一ないし五、第一〇ないし第一二号証の各一ないし四、第一三号証の一ないし五、第一四、第一五号証の各一ないし四、第一六号証の一ないし七、第一七号証の一ないし三、第一八号証の一、二、第一九号証の一ないし五、第二〇ないし第二三号証の各一ないし四、第二四号証の一、二、第二五号証の一ないし五、第二六ないし第二八号証の各一ないし四、第二九号証の一ないし三、第三〇号証の一ないし五、第三一号証の一ないし四、第三二号証の一、二、第三三号証の一ないし三、第三四号証の一ないし四、第三五、第三六号証の各一、二、第三七号証の一ないし三、第三八号証の一、二、第三九号証、第四〇、第四一号証の各一ないし三、第四二号証の一ないし四、第五二号証及び証人牧村雅行の証言により真正に成立したものと認められる甲第五三号証の一ないし五並びに同証人の証言によれば、(1)原告は、フランス国法に基づいて設立された会社であつて、一七二三年からパリで毛皮商を営んでいたジバレ社にその端を発し、ルイ・ヴイクトール・レヴイヨンが、一八三九年に右ジバレ社を買取つてその営業を承継し、その後、その名称を「レヴイヨン」と改称し、現在に至つている、(2)原告は、一八五五年には他の毛皮店三店を買収してフランス最大の毛皮店に発展し、一八七二年にはロンドンに支店、ライプツイヒに毛皮の買付店を設置し、一八七八年にはニユーヨークに支店を設置し、また、一九世紀末には世界の各地に毛皮の買付店を設置して現地から直接低価格で原皮を購入する方法を取つて莫大な利益を上げ、更に、毛皮の品質を長く保つ方法を改良したりして、世界でもトツプクラスの毛皮店となつた、(3)原告は、今世紀には、金融、不動産、繊維等の分野に及ぶ多角的経営に乗り出したが、依然、その事業の中心は毛皮店であり、レヴイヨンの毛皮製品といえば、歴史と伝統のある最高級の毛皮製品として、世界的に広く知られている、(4)わが国において、毛皮が商品としてフアツシヨンの世界に浸透するようになつたのは、比較的最近のことであるが、昭和五二年から、八木通商株式会社が総輸入元、三喜商事株式会社が総販売元として、原告の毛皮製品の販売を本格的に始めるようになり、わが国におけるその売上は、昭和五三年度には年間約一〇億円、昭和六二年度には年間約二五億円となつた、(5)日本の右二社は、その発売開始当初から現在まで毎年多額の宣伝広告費用を投じて、フアツシヨン雑誌に、原告を歴史があり最高級の毛皮製品を販売する会社として紹介してその商品の宣伝広告を掲載したり、東京及び地方の主要都市において、原告の毛皮製品の発表展示会を開催してその宣伝広告をしたりしている、(6)原告は、既に昭和五三年、五四年ころ発行の多数のフアツシヨン関係の雑誌や書籍等において、毛皮の最高級品を製造販売する世界的に著名な老輔として、たびたび取り上げられ、紹介されている、以上の事実が認められ、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。右認定の事実によれば、原告の「レヴイヨン」の名称は、遅くとも昭和五五年七月以降現在まで、わが国において、歴史と伝統のある最高級の毛皮製品を取り扱う世界的に著名な会社として、広く認識されているものと認めるのが相当である。

2 被告が商号を「株式会社レヴイヨン商会」として昭和五五年七月一八日に設立登記された株式会社であることは、当事者間に争いがない。そして、被告の商号「株式会社レヴイヨン商会」のうち、「株式会社」及び「商会」の部分が一般的な会社の名称であることは明らかであるから、「レヴイヨン」の部分が他の会社との識別力を有する部分であると認められるところ、この部分が原告の名称である「レヴイヨン」と同一である以上、被告の商号は、全体として、原告の名称と類似しているものと認めるのが相当である。

3 成立に争いのない甲第四三、第四六、第四八及び第四九号証の各一ないし四並びに第五一号証によれば、被告がその商号を使用して靴製品の販売を業として行つていることが認められ、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。ところで、前認定の原告が製造販売している毛皮製品と右の被告が販売している靴製品とは、いずれも皮製品という点で共通しており、また、証人牧村雅行の証言によれば、原告は、靴製品の製造販売も行つており、日本においても、近くその販売を行う予定であることが認められる。そうすると、被告が靴製品の販売に原告の周知な名称である「レヴイヨン」に類似する被告の商号を使用する行為は、被告の商品又はその営業が、原告若しくは原告と緊密な関係にある会社の商品又はその営業であるとの混同を生ぜしめるおそれのあるものであることが明らかである。

4 前記3のとおり混同のおそれが認められる場合には、特段の事情がない限り、原告の営業上の利益が害されるおそれがあるものというべきところ、本件においては、右特段の事情を認めるに足りる証拠はない。

5 以上によれば、原告の不正競争防止法一条一項一号及び二号の規定に基づく被告の商号の使用の差止め及び商号登記の抹消登記手続を求める請求は、いずれも理由がある。

二 不法行為に基づく損害賠償請求について

1 原告の「レヴイヨン」なる名称が、毛皮製品の分野において、被告が設立された昭和五五年七月ころ、既にわが国において広く認識されていた名称であること、そのような状況の下で、被告が、「株式会社レヴイヨン商会」の商号の下に設立され、靴製品を販売してきたこと、及び被告の右行為が不正競争防止法一条一項一号及び二号所定の不正競争行為に該当することは、前記一認定のとおりであり、右によれば、被告は、故意又は過失により、右行為に及んだものと認められ、以上によれば、被告の右行為は、不法行為を構成するものというべきであるから、被告は、これにより原告が被つた損害を賠償すべき義務を負担したものといわざるをえない。ところで、原告が、被告の右行為により、自己の権利を擁護するため本訴提起を余儀なくされ、訴訟追行を弁護士である原告訴訟代理人に委任したことは、本件記録上明らかであるところ、その弁護士費用については、本件の事案の難易、請求額、認容された額その他諸般の事情を斟酌すれば、五〇万円が被告の本件不法行為と相当因果関係に立つ損害と認めるのが相当である。

〔編註〕 本件における当事者の主張は左のとおりである。

一 請求の原因

1 不正競争防止法一条一項一号及び二号の規定に基づく請求

(一) 原告は、フランス国法に基づいて設立された会社であつて、高級毛皮、香水、繊維及び靴製品の製造販売の分野において世界的に著名なフアツシヨン・メーカーである。原告の歴史は、一七二三年にその前身であるジブレ社がパリで設立されたことに始まり、その後、ダプルヴアル伯爵家のルイ・ヴイクトール・レヴイヨンが、一八三九年に同社を買収し、一八五五年に社名をレヴイヨン社と改め、その後、フランスはもとより全世界で高級毛皮を販売するようになり、最近の年商は全世界で約五二〇〇億円にのぼる、というように推移してきた。このように、原告は、世界で最も古い毛皮商として著名であるばかりでなく、その商品は、最高級毛皮の代名詞ともなつている。原告は、近年に至つては、靴製品なども製造販売し、また、子会社を設立して、香水、繊維なども製造販売しているが、これらすべての商品について、品質を第一義とする統一的なポリシーで品質の管理に意を注いできた。そのため、原告の商品には、常に最高級品のイメージが保持されてきた。ところで、原告は、日本においても、昭和五三年ころから、各地の百貨店などで各種毛皮製品の販売を開始し、これに伴い各種のマスメデイアなどで原告及びその商品が紹介され、また、原告の代理店において原告及びその商品の宣伝広告活動を行つた結果、「レヴイヨン」の名称及びその欧文表示である「Revillon」の名称は、遅くとも昭和五五年七月までには、原告の商品及びその営業活動を示す表示として、わが国において広く認識されるに至つた。

(二) 被告は、商号を「株式会社レヴイヨン商会」として昭和五五年七月一八日に設立された株式会社であるが、その主たる目的は、「靴類及び靴類の付属品の製造、卸及び販売、皮革材料及び製品の輸出入及び販売並びに製靴材料の製造及び販売」であり、靴類の製造販売を主たる業務としている。

(三) 被告の商号「株式会社レヴイヨン商会」のうち、「株式会社」及び「商会」の部分は、いずれも一般的用語であつて、自他識別力を有していないものであり、残る「レヴイヨン」の部分だけが、他との識別力を有する要部である。この被告の商号の要部「レヴイヨン」は、原告の名称と同一であるから、被告の商号は、全体として原告の名称に類似する。また、原告の商品である靴製品と被告の商品である靴製品とは同一であるばかりか、原告の製品である毛皮製品と被告の製品である靴製品とは極めて類似しているから、被告がその商号をもつて前記目的の事業を営むことにより、取引者又は需要者は、被告の商品を原告の商品と混同するおそれがあり、また、被告の営業上の施設若しくは活動を原告の営業上の施設若しくは活動と混同するか、又は両者の間に緊密な営業上の関係があると誤認するおそれがある。そして、このような混同により、原告は、原告の「レヴイヨン」という表示に付着した出所識別機能、品質保証機能及び顧客吸引力を害され、その営業上の利益を害されることは明らかである。

(四) よつて、原告は、不正競争防止法一条一項一号及び同二号の規定に基づき、被告に対し、その商号の使用の差止め及び商号登記の抹消登記手続を求める。

2 商法二一条に基づく請求

被告の商号が原告の周知な名称と類似しており、かつ、被告の目的及び業務が原告の目的及び業務と同一か、又は極めて類似していることは、前記のとおりであるから、被告は、不正の目的をもつて、その営業を原告の営業と誤認せしむべき商号を使用しているものというべきである。

よつて、原告は、商法二一条の規定に基づき、被告に対し、右1の請求と選択的に、その商号の使用の差止め及び商号登記の抹消登記手続を求める。

3 不法行為に基づく損害賠償請求

被告は、その商品又は営業を原告の商品又はその営業と誤認混同させることを目的として、前記1のとおり、原告の周知な名称と類似する商号を用い、これによつて原告の営業上の利益を害しているから、被告の商号使用行為は、原告に対する不法行為を構成する。そこで、原告は、自らの権利を擁護するため、弁護士に委任して本訴を提起したのであるが、本件における事案の困難性、請求内容及び裁判に要する日時など諸般の事情を考慮すれば、原告が支払う弁護士費用のうち二〇〇万円が、被告の不法行為と相当因果関係に立つ損害である。

よつて、原告は、被告に対し、被告の不法行為による損害二〇〇万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日から支払済みに至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

二 請求原因に対する被告の認否及び主張

1(一) 請求の原因1(一)のうち、原告の名称がわが国において広く認識されているとの事実は否認し、その余の事実は知らない。不正競争防止法は、自己の商品又は営業が他者の商品又は営業よりも優位であると区別しうる状態を築き上げた営業者を保護しようとするものであり、したがつて、商品表示又は営業表示は、他者から区別されるべき優越的地位を獲得する程度に「広く」知られていなければならないが、原告の名称は、かかる程度に知られていない。

(二) 同1(二)のうち、被告が靴製品を製造販売しているとの事実は否認し、その余の事実は認める。

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